あの月に向かって打て



ボクシングといふもの

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今年の1月、WBC世界フライ級タイトルマッチを観に行った。挑戦者の小松則幸選手の知り合いからチケットをもらったのだ。ただ、チケットをもらったから観戦に行ったわけではなく、元からお金を払って観に行く予定だった。最近、大阪でタイトルマッチなどしていなかったので、足を運んでみようと思っていたところの、渡りに船だったわけだ。会場に着くと、やはり独特の雰囲気がある。見るからに怖そうな兄ちゃん達がうろちょろしている。「これでは、よっぽどボクシングを好きな人でないと観に来れないな。」そう思いつつ会場に入る。あまり使いたくない言葉だが、前座の試合が始まる。ボクシング通の声が飛ぶ。ものものしさに戸惑いながら、この殺伐とした女気のない雰囲気を楽しんでいる自分がいる。


プログラムは進み、ついにタイトルマッチが始まる。小松選手の入場だ。多くののぼりが上がり、それに押し出されるように小松選手がうつむき加減で入場してくる。なんと言うプレッシャーなのだろう。観戦しているこちらにも、小松選手が今までこの日の為に身体をいじめ抜いてきたその辛さ、周りの小松選手に対する期待感が伝わってくる。それはある意味、悲壮感にも感じる瞬間もある。ボクシングは個人で戦う競技だ。しかし、リングに足を踏み入れて、対戦者とグローブを合わせるまでのさまざまなプロセスが、互いの選手の肩に乗っている。プロセスの結晶がいかにより多く輝くか、また輝いて見せるか、で勝負が決まる。その何もかもの全てが入場してくる小松選手の両肩に乗っている。それが見える。たとえ小松選手の姿がのぼりや人垣に隠れて見えなくても。そのオーラは身体に伝わってくる。これが世界タイトルマッチなのだ。


続いてチャンピオンの入場。フライ級最強ではないかと思われるサウスポーの入場。何人もの日本人挑戦者を跳ね返し、フィリピンの期待の星を粉砕した、恐るべきサウスポーが入ってくる。タイ国王の写真が高々と掲げられ、いつもの儀式のような入場が始まる。「これが王者の風格か」ガウンに身をまといながら軽くステップを踏み近づいてくる男にそう感じた。悲壮感はない。私が「チャンプ」と声を掛けるとうっすら笑顔を浮かべてグローブで返してくれた。チャンプの名前は、ポンサクレック・クラティンディンジムと言った。タイのボクサーはリングネームの後半に所属しているジムの名前をつける。だから、タイのボクサーを始めてみた人は違和感を味わうのではないか。たとえば、○○ギャラクシー、○○3Kバッテリーなどがそうだ。…話を進めよう。


皆さんがテレビで観ているのと同じように両陣営がリングに上がる。国歌が流れる。騒々しい人たちがいる。恥を知れ、と思う。やがてリングアナウンスによって互いのコールがある。日本のリングアナウンスは本場のアメリカと違い、少し派手さに欠けるような気がする。それを決して悪く言うわけではなく、これは日本ではボクシングを格闘技としてとらえ、アメリカではエンターテインメントととらえている違いのようなものがあるのかもしれない。その日米の差は別のコラムで書きたい。私は日本もアメリカも両方のリングアナウンスが好きだ。相撲で行事が力士の四股名を読み上げるように、これから殺し合い(あえて表現します)をする男達の名を叫ぶ。なんと王者の落ち着いたものか。試合内容を逐一レポートするつもりはないが、結果は歴然だった。ポンサクレックの開いたボディに小松選手がストレートを打ち込む、その時にはすでに小松選手の側頭部にポンサクレックのパンチが当たっていた。小松選手にボディを打たせ、グローブがボディに当たると同時に王者はカウンター気味の左フックを狙っていたのだ。それが幾度となく繰り返された。やがて小松選手は敗れた。それは、戦闘機に乗っているような強烈な(プレッシャー)を前進に受けながら観戦していた我々が解き放たれた時だった。目の上をカットしたキズが痛々しかった。しかし、小松選手の頑張りには大いに拍手を送りたい。彼は決してあきらめず、最後まで拳闘士として前進し続けた。


後日小松選手と食事をする機会があった。ポンサクレックのパンチは今まで受けたことの無いようなパンチだったと言う。カットした傷跡を見せてももらった。不思議な表現だが、その傷口は思ったより深く、小松選手曰く、まるでビル風のように「キズの中を風が走った」と言う。その風を寒く感じたとも。それほどのパンチだったのだ。小松選手自身、減量がきつく、1階級上げる可能性もほのめかしたが、私の「もう一度やりたい?」との問いに、彼はうつむきながらもギラギラした目で「やりたい。」 …安心した。ボクサーは1度の敗北で全てが変わってしまったりするものなのだ。


小松選手は5月の復帰戦を問題なくクリアし、11月に復帰第2戦を迎える。もしどこかで小松選手の名前を見かけたら、応援して欲しい。よろしくお願いします。
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by mau46 | 2005-10-05 23:46 | スポーツ
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