あの月に向かって打て



エスペラントとスポーツ:その2

トラックバックカテゴリ:スポーツ

私がヨーロッパへ行った時のこと。ブリュッセルのシーフードレストランで食事をしていた。私は風邪を引いていて、ひどく体調が悪く咳ばかりしていた。まだ夕食には早い時間だったので、他に客は赤ちゃん連れの夫婦だけだった。私が咳をする度にその赤ちゃんがこちらを向く。「ごめんね」なんて言いながら食事をしているうちに、だんだんとその夫婦と言葉を交わしていく様になった。

そのきっかけは、

「どちらから来ているのですか?」

という私の問いに、

「イングランドからですよ」

の答えだった。私がふと、

「イングランドだと、ワールドカップで日本に来てくれましたね。本当はイングランドVSアルゼンチン戦を観に行きたかったんですよ」

と返すと、そのイングランドの旦那さんの目が変わった。

「君はサッカーが好きなのか?」

おやおや。どこかで見たような雰囲気だと思えば、留学時代のイタリア人 ロベルトとまったく同じではないか。

旦那さんもワールドカップへ観戦に行きたかったようだが、日本は物価が高く、旅費がかさむため行けなかったそうだ。私がサッカー好きと分かると、どんどんサッカーの話にのめり込んでいった。

「君はどの試合を観戦したの?」

「ロシアVSチュニジアとベルギーVSチュニジアです」

いつか述べたように、やはりサッカーの話をすればコミュニケーションをとるのに苦労はしない。奥さんも楽しそうに会話を聞いている。日本だと奥さんが退屈しているかを気にしながら話したりするものだが、私には奥さんも楽しんで話を聞いてくれている確信があった。それは留学時代の経験が生きている。例のコロンビアとドイツの女の子との会話だ。

会話が徐々にエスカレートしてきた。

「君はプレミア(イングランドサッカープロリーグ)のどのチームが好きなんだい?」

と旦那さん。

難しい質問だ。私はサッカーではオランダのファンである。私は元オランダ代表のベルカンプという選手の大のファンで、現在ベルカンプはイングランド プレミアリーグのアーセナルというチームに所属している。『アーセナルを応援している。何故ならベルカンプがいるからだよ』と答えようと思い、口を開けた。

「アーセナ….」

「NO!!」

と、旦那さん。『君は何も分かっちゃいないな…』のような顔をされてしまった。

それ以降、どうしてアーセナルを応援しているかの弁明はさせてもらえなかった。

「じゃあ、あなたはどこを応援しているの?」

「ウェストハムに決まっているじゃないか!」

もう、最初の頃とは別人である。その後、好きな選手の話をした。私が旦那さんは誰のファンか尋ねると、1960年代の選手を挙げてくる。しかも、「彼は196○年~○○年まで活躍して….」わからない!さすがにサッカーマニアの私でも分からない!『せめてここ20年くらいの選手にしてくれ!』という気持ちを込めて、

「今、好きな選手は誰なの?」

と聞くと、一休さんにとんちをふっかけられた将軍義満公のように悩みこんでしまった。仕方ないので私から話した。

「僕はスティーブン=ジェラード(か、リオ=ファーディナンドのどちらかを答えた)が好きかな」

オランダファンの私がわざわざイングランドの選手を挙げて答えてあげたにも関わらず、旦那さんは難しい顔をしている。

「ランパードも好きかな…」

ボソッと私が言うと、旦那さんは難しい顔のまま、

「ランパードは、元はウェストハムの出身だからな… まぁいいか…」

やっと許してもらえた。

私は一つ恥をかいた。奥さんにも同じ質問をしたのだ。

「あなたはサッカー選手で誰が好き?」

彼女は、

「ベッカムよ」

「なるほど。ハンサムだからね」

「違うわ。私はサッカー選手として、彼のテクニックを見ているのよ」

そうか、私は日本で報道されているままの事を話してしまった。アジア(とりわけ日本)のベッカム人気はすごい。私はそれを冷ややかな目で見ていたのだが、何故か日本のノリで話してしまったのだ。コロンビアの友達にしてもドイツの友達にしても、もちろん奥さんにしても、しっかりと選手のプレーを正当に評価しているのだ。日本のようにミーハーな捉え方でなく、しっかりと選手のテクニックを評価している。私は奥さんをなめていたのかも知れない。この場を借りて謝りたい。

異国で初めて会った者同士がここまで熱く語れると言うことは素晴らしい。我々は時間も忘れて語り合った。ロベルトの時と同じだ。スポーツ(この場合はサッカー)という世界共通語のおかげで、彼らとは数年来の友達のように楽しい食事をする事ができた。なんと素晴らしいことだろう。私はせっかく話をしてくれた御礼に日本の5円玉を赤ちゃんにあげた。日本では幸運をあらわす旨を伝えると、奥さんは非常に喜んでくれて、「この子のペンダントにするわ」と言ってくれた。

時間が過ぎて彼らが帰る時が来た。どうやら赤ちゃんがウンチをもらしてしまったらしい。名残惜しいが仕方ない。握手をして彼らは店を去った。非常に寂しい想いをしながら彼らを見送った。さて、席に戻ろうかとしたその瞬間。店の奥から店員が私に向かって突進してきた。何事かと思っていると、そのまま私は肩を抱かれた。 ??? 事態が全く把握できない。彼はまくし立てて言う。

「お前はさっき、チュニジアサッカーがどうのこうの言ってただろ!」

「うん」

「オレはチュニジア人だ!お前はチュニジアのサッカーを観に行ってくれたんだろ?お前はオレの友達だ!」

「???」

「お前はどうしてベルギーなんかにいるんだ? お前はチュニジアに来るべきだ!」

このおっさんは何を言っているのだ??しかしこのノリ… またロベルトの時と同じだ!

「ベルギーは天気も悪いし… チュニジアは天気も良いし、食べ物も美味い!」

ベルギーのレストランの店員なのに… 心の中で突っ込みながらおもしろいから話を聞いていた。どうやら彼は言葉の通り、チュニジアのサッカーを応援しに行ってくれた事が相当嬉しかった様子だ。

レストランでのさりげないサッカーの話が輪を広げ、レストランの雰囲気を変えてしまった。以前、エスペラントに関するコラムでエスペラントを学ばれている方から書き込みをいただいた。“最初から互いの共通話題・認識があれば、わかりあうのも早いでしょう…”おっしゃる通りだ。要するに、分かり合えるものがあれば、そこにはエスペラントも英語も必要ない。最悪、身振り・手振り・絵に描くでも友達・フレンド・アミーゴになってしまえるのだ。なにもスポーツに限らなくてもよい。口笛で「明日に向かって撃て」のテーマを吹いていたスイス人に合わせて私も口笛を吹いたら、一気に二人の心の距離が近づいたこともある。そういったグローバルな共通認識を持てることは素晴らしいと思うし、そこには人種も性別も国籍も関係ない。宇宙人であっても共通認識があれば心も近づける(ちょっと言いすぎか…)のだ。これを読んで下さった方々も、何か世界中どこでも話せるような事に興味をもたれてはいかがだろうか(このコラム読む人はスポーツに関心があるから多分大丈夫か♪)。国同士がいがみ合っていたとしても、個と個の間には必ず笑顔で結ばれる事はあるはずだ。少し大げさなまとめになってしまったが、私はそれを強く思う。

しかし、こんな大きなまとめをしてしまって、次のトピックは何を描けば良いのだろう。読んで下さった方々、何かコラムを書けるようなネタを下さい。共通認識を増やしていきましょう!!
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by mau46 | 2005-10-19 20:18 | スポーツ
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