あの月に向かって打て



フルアムVSボルトン 活劇 =父を恨むの巻=

段々と観客が席を埋め始めた。人が私の前を通るため席を立って歩くスペースを空けたりしていると、知らない間にスターティングラインナップが発表されていた。FulhamのメインスタジアムであるCRAVEN COTTAGEにはアーセナルのHighburyの様にモニターがない。立ったり座ったりしている間に見逃してしまったのだ。
「中田は出場するのかなぁ」
その心配は杞憂に終わった。選手がピッチに入場してくる頃には、ある程度観客は席について落ち着いていた。そこには中田の姿もある。これで一安心。そしてゲームが始まる前に黙祷。ジョージ=ベストの死を偲ぶ。前日のHighburyでは黙祷を捧げたが、今日は違った。全員が拍手で彼を送り出したのだ。彼は非常に華のある選手で、湿った雰囲気は苦手だったのであろう。私はまた別の感動を覚えた。

ゲームが始まる。私の両サイドの観客、そして前の観客はドイツ語を話し、後ろの観客はフランス語を話していた。もちろんいずれもフルアムのファンである。スタジアムに笛が鳴り響きゲームが始まった。中田は中盤の左を任されていたように思える。しかし、基本的には動きに縛りはなさそうで、右に左にポジションにこだわることなくよく動いていた。
私が受けた感想は、
”まだ完全に中田がチームから信頼されているわけではない”
と言うことだった。それは、アーセナル戦のコラムで述べたように、アーセナルはベルカンプとピレスに一旦ボールを預ける。そして彼らからパスが供給されて攻撃が展開されていく。しかし、まだ中田中心にボールが集まってくるわけではない。これは仕方ないかもしれない。まだ彼はボルトンに入団して日が浅い。これは時間と彼のプレーが解決してくれることなのだ。彼のポテンシャルがあれば、その時間は他の選手よりも大幅に短縮されるだろう。私のその予想を裏付ける事もある。少しでもパスの連携が合わなかったり、カバーリングの連携がうまくいかなかった場合、中田はすぐに他の選手に近寄り声を掛ける。これはなかなかできるものではない。私は彼のその姿を見て大きな安堵感を持った。
「これなら大丈夫」
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本当に素晴らしい選手である。彼のポジションは何も点数を取る専門家ではない。いわばゲームの潤滑油的な存在なのである。どんな機械も最初は油をなじませるように、彼はその余りある才能を爆発させるため、チームに彼の油をなじませているのである。

ボールの動き方と言えば、中田には浮いた球がよくくる。これではなかなか次の動作には移りにくい。また、彼はヨーロッパの選手と比べると身長では負けてしまうため、上から乗りかかられるとボールをキープするのは難しくなる。できれば足元にボールを集めるように、他の選手には心がけて欲しかった。まぁこれは私のわがままな希望だが...
それにしても中田はよく動く。彼は自らボールタッチの数を増やすことによって、チームの潤滑油たる自分を馴染ませようとしているのであろう。

観客は、昨日のアーセナルに比べるとおとなしく感じた。これはチームの強さと比例しているのかもしれないが、声がアーセナルサポーターのごとく鳴り響くわけではなかった。私は中田に声援を送りたかったのだが、声が小さくてもここはフルアムのホーム。ボルトンが何をしてもブーイングの中で、中田の応援をするのは生命の危険を感じる。大げさに聞こえるかもしれないが、彼らはそれほど自分の愛するチームを応援することに必死なのだ。

もうひとつ気になったことがあった。ボルトンのフォワードである、エル=ハッジ=ディウフという選手である。彼はセネガル代表の選手で、日韓ワールドカップでは、あの前回優勝チームであるフランスとの初戦でフランスに悪夢をプレゼントした。彼のスピードと突破がフランスディフェンスを壊滅させたと言ってよいと思う。その選手がボルトンにいる。
そのディウフがだ。私が見た感じ、
”スピードが落ちた”
と思った。火の出るような爆発力の突破がなりを潜めていたように感じた。もし、彼が本調子のスピードを発揮することができれば、中田のパスとの愛称は良さそうな予感がするのだ。ディウフが変わっていない事と言えば、
その”熱くなりやすさ”だ。
どんなスポーツも頭に血が上った時点で、それは負けを意味する。彼は事あるごとにイラついているのが、遠くにいる私にも感じることができた。それはうまくパスをもらえない、ファウルをとってもらえないが自分がぶつかると簡単にファールになってしまう。オフサイドの判定。それらが彼をイラつかせ、彼を追い込んでいく。
(画像:ブルーのシャツのハゲチャビンがディウフ)
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そんな中、ボルトンは開始4分でゴールを奪われてしまう。アメリカ出身のブライアン=マクブライドにゴールを決められてしまう。私の周りは大騒ぎ。

また、ボルトンは中盤の浮きだまの競り合いにも負けていたように思う。私がフルアムでもっとも気になったのがボランチのパパ=ボウバ=ディオプである。ボランチというポジションは中盤でありながらやや後方にポジショニングする。要は守りの第1砦のようなものだ。現在、世界的なサッカーではこのボランチの活躍がチームの明暗を左右すると言っても過言ではない。守りの第1砦でありながら、攻撃に対しても前方へ安定した正確なパスを供給することを要求される。
一時、レアルマドリーのデイビッド=ベッカムがチャレンジしたが、とても彼にこなせるポジションではなかった。このポジションには屈強なフィジカルが必要だ。そのフルアムのディオプと言う選手がすごい。空中戦ではほとんど負けていなかったように思う。また、ボルトンのカウンターの時でも、まず最初に彼がボルトンの前に立ちはだかりボルトンの攻撃時間を遅らせる。そのディオプの当たりのおかげで、フルアムの選手がディフェンスに帰ってくることができるのだ。素晴らしい選手である。

そのディオプの活躍もあり、18分に再びマクブライドが追加点を上げる。ボルトンにとってはイヤな流れだ。フルアムのプレスが早いので正確なパスが回せない。また、浮き球もディオプが制空権を抑えているため弾かれる。まさに悪循環である。このフルアムの2点はボルトンががぶり寄られた失点のように思う。

そんな中でも中田の動きには目を見張るものがあった。幾度となくチャンスメイクを試みる。倒されてフリーキックをもらう場面もあったのだが、私の周りの観客はブーイングしながらも中田の事を褒めている様子だった。ドイツ語だったので、何を言っているのかはわからなかったが。
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ゲームはそのまま後半に入り、特に見せ場もないままゲームが流れていく。ディウフはピッチにいない。彼は2枚目のイエローカードを貰い退場してしまった。観客はブーイングとともに大喜び。中田は後半開始早々、ジェイジェイ=オコチャと交代してしまった。献身的に動いていたものの、安定したボールが集まらないため、中田の良さが活かされなかったと思う。それに引き換え、ジェイジェイにはボールが集まる。彼を起点にしてパスが供給される事が多くなった。これによりボルトンの攻撃の幅が広がったように見えたが、フルアムのゴールネットを揺らすには何かが足りなかった。

そんなゲームが終わりを告げようとする85分。事件がおきた。私のお腹の雷さんが暴れだしたのだ。
「まぁ我慢できる」
そう思っていたのだが、次は雷さんが怒り出した。
「Excuse me」
私は席を後にしてトイレへ直行。やはりゲーム中だ、ガラガラに空いている。私は個室に飛び込んだ。その時、最大のゴロピカドン。危なかった、もう少し座席で辛抱していたら、大きな国際問題を起こしかねなかった...
私は両親の遺伝子を引き継いだことを非常に誇りに思っているが、このお腹の弱さは父親譲りのものだ。素晴らしい遺伝子なのだが、このようなオプションはいらなかった。

父親を恨みつつ、トイレを慌てて出ると終了の笛が鳴り響いていた。悲しみのままスタジアムを後にしようかと最後にピッチの方へ行けば、最終スコアは2-1!私がトイレで戦っている間にボルトンが一矢報いていたのだ。人に聞くとフルアムのオウンゴール(自殺点)らしい。貴重なゴールシーンを見逃し、何か大切なものを失ったような気持ちになりながら私はスタジアムを後にした。

とぼとぼPutney Bridge駅へ向かって歩いていった...

明日は日本に帰る日である。
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by mau46 | 2005-12-13 17:39 | スポーツ
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