あの月に向かって打て



レクイエム


偉大な人が背中を向けて去っていった。
仰木彬監督である。

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よくニュースでは、10・19がとりだたされる。
確かにあれは辛い思いで見ていたおぼえがある。
なぜ、あのタイミングでロッテの有藤は抗議をしたのか?? 未だに疑問に思うシーンだった。そして虚無感に包まれた中の12回裏の守備。それでも手を抜くことなく、守りきった近鉄バファローズは美しかった。

しかし、実は私は翌年の方が記憶にある。その年のバファローズは復讐の鬼と化していた。しかし絶対王者の西武も一歩も引き下がらない。そんな中で迎えた最終戦。所沢に舞い降りた褐色の悪魔が西武優勝の夢を打ち砕く。ラルフ=ブライアントは、ダブルヘッダー(1日に2試合行う事)で4打席連続ホームランを見舞うのである。あの時の打たれた渡辺久信の顔は印象深い。劇的な優勝を収め、仰木監督が宙を舞う時、誰しもが祝福の喝采を送ったことだろう。阪神ファンの私も心から喜んだ。

ところがその感動はすぐに打ち砕かれる。その後の日本シリーズで誰もが予想しない開幕3連勝で、近鉄は最高のスタートを切る。相手は知将藤田元治監督率いる巨人だ。事件は東京ドームだった。3連勝を果たしたヒーローインタビューで、近鉄の投手である加藤哲郎が、
”巨人はロッテよりも弱い”
発言をしてしまう。
これにより発奮した巨人は奇跡の4連勝で日本一を勝ち取るのだ。これは余談だったが...

仰木監督は選手の個性を大切にする。野茂のトルネードや鈴木一朗(イチロー)の振り子打法などだ。特に鈴木一朗の振り子打法は、仰木監督がオリックスの監督に就任する前の監督である土井正三が鈴木一朗のフォームを見て、修正(聞こえはいいが振り子打法をやめさせる)を命じた。それに従わない鈴木一朗は2軍での生活を余儀なくされたように思う。仰木監督が就任し、名前を鈴木一朗からイチローに替え、イチローに手を差し伸べなければイチローはどうなっていたのであろうか。
面白いのは、イチローのプロ初ホームランは、また仰木監督の愛弟子である野茂からなのである。
仰木監督はカタチにこだわらない、日本人には稀有の存在であったように思える。

阪神大震災があった。関西に住む人は誰しも憶えている事だろう。当時の首都の反応には怒りをもったものだ。村山首相の初動の遅さ、他国からの援助を拒否、マスコミはすぐに”もし首都に地震があったら??”のありがたいシミュレーション。
「どれほど被災者の心を踏みにじれば気が済むのだろう」
と思っていた。さらに頭にきたのは、貴乃花がその年の場所で優勝したおりに、
「この優勝を神戸の皆さんに捧げます」
と言った。全く被災者が喜ばない、彼の偽善的な発言にブーイングも少なくなかった。

そんな中で仰木監督は、
『がんばれKOBE』
でなく、
『がんばろうKOBE』
と言った。これには誰もが心を打たれたと思う。
そして優勝。その年は日本シリーズを逃したものの、翌年には日本一を勝ち取る。それがどれほど被災者の心を明るくしたことか。正直言って、優勝を狙えるほどのタレントは揃っていなかったと思う。しかしプラスアルファがどこからか降りてきたのだ。野球は、スポーツはわからない。

2004年、プロ野球に激震が走る。近鉄バファローズがオリックスに吸収されてしまう。
そんな中、このチームをまとめられる人間はこの世でたった一人しかいなかった。仰木監督は既に病であることを知っていたと言う。
仰木監督は最後の死に場所を求めて決戦の場へ向かっていったのだ。勝てるはずも無い戦力で。圧倒的なホークス、ライオンズ、マリーンズ(開幕当初はそれほどでもなかったか)に立ち向かうのは誰もが不可能に見えた。
そんな中で仰木監督はプレーオフに参加条件の3位争いを演じて見せるのだ。
まるでその姿はあえて死地に乗り込んでいく、その姿はあたかも戦後武将の真田幸村のようである。ライオンズの旗は一度は地に落ちたものの、最後は地力に勝るライオンズに寄り切られた。その巨大な敵に立ち向かう姿には誰もが感銘を受けたことであろう。

シーズンが終わり、仰木監督は勇退を発表する。戦い続けた武将の顔は少し痩せて見えた。

12月15日、仰木監督(あえて呼ぶ)は永遠の野球人になった。
バラバラだったであろうオリックスバファローズをひとつにまとめる大役を終えて。
仰木監督はチームの光り輝く将来を指差したまま、前に向かって倒れていったのだ。

次は選手が答えを出す番である。

さらに言わせて貰えば、清原はこれでオリックスに入団しなければ、さらに男を下げることになる。

私もいずれは仰木監督の住む世界に行くだろう。その時には是非、一緒に一杯飲みたいものだ。
いいですよね?しばらく待っててください。
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by mau46 | 2005-12-16 21:32 | スポーツ
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